聴こえない音を録る                                                                                                                                                                             2006年11月 12日 更新                                                                                                                                           

 

超音波を録る (注1)           

人間の耳で聴き取れる周波数はおおよそ20~20000Hz(20kHz)と言われている。超音波とはその可聴域を超える超高周波音、すなわち人間の耳には聴こえないとされている音のことを指す。しかし人間には聴こえない音でも動物には聴こえていたりする。イルカやコウモリが超音波をコミュニケーションに用いるのは有名だが、例えば犬や猫も人間よりはるかに高い周波数(50kHz以上)を聴き取ることができる。動物は外敵から身を守るためにかすかな気配のような音まで察知できる必要があるためだろう。原始時代においては人間(原始人?)ももっと高い周波数まで聴こえていたのではないだろうか。

 

超音波といっても例えば鍵やアクセサリーをじゃらじゃらさせたり、服が擦れたりする音にも超音波は含まれている。一番簡単に超音波を体感する方法はバットディテクターと呼ばれるコウモリの発する超音波を聴く装置を使うことだろう。この装置はコウモリの出す超音波を可聴域音に変換し、その変換された音をリアルタイムに聴くことができるというものだ。録音機につなげばその音を録音することも可能だ。街中をこのバットディテクターを持って歩いてみると、普段聴いている音世界とは全く異なる音の世界が広がっていることに気づく。ダイヤルを回し周波数を替えていくと、街の照明や機械、建物からドローンのような音や轟音ノイズが聴こえてくる。あまりの轟音にヘッドフォンを外すと、それらの音は全く聴こえない。でも中にはどこから出てる音だか分からないがずっと聴いていたくなるような不思議な音も聴こえてきたりして面白い。

 

もちろん自然の音にも超音波(超高周波)は沢山含まれている。川のせせらぎの音、森の音、滝の音など人間が心地よいと感じる自然音のほとんどには超高周波が含まれているといってもいいかもしれない。最近の研究で実際これらの超高周波(ゆらぎ)が人間の脳をリラックスさせる効果をもつことが分かってきた。例えば森林浴などで癒しを感じるのは視覚的、感覚的な要因とともに、超高周波を含む音が関係しているということだ。また超高周波はアコースティック楽器の音にも多く含まれている。特にインドネシアのガムランなど金属打楽器の音には多くの超高周波が含まれている。生のガムランを聴いて演奏者や聴衆がしばしばトランス状態に陥るのは実は超高周波が関係しているとの説もあるぐらいだ(「音と文明」参照)。

 

CDのサンプリングレートは44.1kHzなのでどんなに良い録音であっても、22kHz以上の音はカットされている。人間の可聴域は20kHzが限界なので、それ以上の周波数をカットする形でCDの規格が決まったのだろう。一方、音楽を製作する側の人たちは録音する際はるかに高いサンプリングレート(88.2kHz、96kHz、192kHzなど)で録って、マスタリングしCDにする際に44.1kHzに落すという手段が当然のように行われてきた。それは高サンプリングレートの方が実際音が良いというのを感じているためで、またエフェクトを掛けた際に音質の劣化が少ないといった理由もあるようだ。とはいえ今まで100kHzまでの超高周波音を録音するにはB&Kの測定用マイクしかなく、それはS/N比が悪く音楽録音にはとても使えないものであった。

最近DVD-AUDIO、SACDといった次世代オーディオの登場でハイサンプリングレートでの録音に対する需要が今まで以上に高まりつつある。そのためか市販のマイクにも超高周波音を含む広帯域を録音できるマイクというのが出てきた。例えばSANKEN CO-100Kは100kHzまでの帯域に対応し、S/N比も良い世界初のマイクとのことだ。また周波数特性(f特)が50kHzまで伸びているマイクにはSENNHEISER MKH-800やEARTHWORKS QTC50などがある。

(注2)。これらのマイクと フィールドレコーディングの機材(その2)で紹介した24bit/192kHzに対応した録音機(注3)を使えば理論的には96kHz(50kHz)までの音を録音することが可能だ(DSDレコーダーならそれ以上の帯域の録音も可能)。 また超高周波を含めてFFT解析できるソフトウェアも容易に手に入るようになった。10年前は研究所レベルでしか行えなかったであろう超高周波音の録音、解析といったことが一応個人でもできる時代になったと言える。とはいえ再生装置(スピーカー、プリアンプなど)も含めて超高周波音に対応したものを揃えるとなると、相当な出費になるだろうが。


(注1)正しくは超高周波成分を含んだ音を録るということです。
(注2)実際にはf特20Hz~20kHzと表記されているマイクでも30kHz、40kHz近く(それ以上も)まで反応を示すものも少なからずあるようです。
(注3)24bit/192kHzに対応した録音機でも50kHz以上の周波数帯域においては正確に録音できないものもあるようです。
        本格的に録音するならGrace design LUNATEC V3のような高品質な外部マイクプリを使い、録音機はデジタル受
        けとして使うべきかもしれません。



参考資料・サイト

「音と文明」 大橋力(著)   
http://www.amazon.co.jp/%C2%97f3068e87f0e-15%C2%97f306etb0X83-6605306806f058081-15-%E5%A4%A7%E6%A9%8B/dp/4000223674

ピーターソン・バットディテクター 
http://www.din.or.jp/~fpc/Ptr/bdtctr.htm

SANKEN CO-100K
http://www.google.com/search?q=cache:xwtPMdov1v0J:www.sanken-mic.com/japanese/condenser/pdf/co-100k.pdf+SANKEN+CO-100K&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=1




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