フィールドレコーディングの機材 part2 初稿 2006.10.1 最終更新 2021.1.31
フィールドレコーディングを気軽に楽しむ場合、マイクや録音機はできるだけ小型・軽量の方が良いと思います。
しかし、よりクオリティの高い録音が求められる場合、選択肢の多いファンタム電源駆動のコンデンサーマイクを使うことがあります。ここでは、ファンタム電源が必要なコンデンサーマイクとポータブルレコーダーについて紹介します。
プラグインパワー駆動のマイクとハンディレコーダーはpart.1を参照してください。
・マイクロフォン
・ポータブル・レコーダー
マイクロフォン
ファンタム電源が必要なコンデンサーマイクというとその種類は膨大になります。
海外のサイトでの評判なども参考にして、フィールド録音向きと思われる小口径(スモールダイアフラム)のマイクを
ピックアップしました。
Audio Technica AT4022 無指向性 S/N比 78dB以上 感度 -34dB Ø21×144mm・124g (音質、S/N比ともによいコスパに優れたマイク。ただし最近製造されたモデルは湿度に弱いという情報も)
Audio Technica AT4021 単一指向性 S/N比 78dB以上 感度 -34dB Ø21×144mm・124g(上記の単一指向性モデル)
SE ELECTRONICS sE8 omni Pair 無指向性 S/N比 79dB 感度 -34dB Ø23×120mm・141g (sE8 omniのステレオキット。ステレオバー、マイククリップ、ウインドスクリーンも付属。値段も比較的手ごろ。単一指向性のステレオキットsE8 Pairもある)
Rode NT55 無・単 S/N比 79dB 感度 -38dB Ø20×145mm・110g (単一指向性と無指向性のマイクカプセルが付属で便利そう。マッチドペアでも販売されている。)
Earthworks QTC40 無指向性 S/N比 74dB 感度 -29dB Ø22×229mm・225g(高価だが透明感のある音色で根強い人気を誇る。周波数特性表を見ても40kHzまでほぼフラット。)
Sennheiser MKH20 無指向性 S/N比 84dB 感度 -32dB Ø25×153mm・100g (プロ御用達のMKHシリーズ。MKH416などのガンマイクが有名だが、これは無指向性マイク。)
Sennheiser MKH8020 無指向性 S/N比 84dB 感度-30dB Ø19×41mm・55g (S/N比に大変優れ、湿度にも強い小型軽量マイクの最高峰。MKH20よりずっと小さく持ち運びにも便利。周波数特性も10Hz~60,000Hzと超広帯域。)
Sennheiser MKH8040 単一指向性 S/N比 81dB 感度-34dB Ø19×41mm・55g (MKH8020の単一指向性バージョン。超単一指向性のMKH8050、超指向性のMKH8060もある。)
SANKEN CO-100K 無指向性 S/N比 72dB以上 感度-28dB Ø21×192mm・150g (100kHz までの帯域をカバーし、音楽録音にも使える唯一のマイク。ハイサンプリングレートでの録音、超高周波音の解析などにも使える。)
DPA ST4006A 無指向性 S/N比 79dB 感度-28dB Ø16×169mm・165g (不朽の名品4006の性質を継承するモジュラー式カプセルMMC4006とMMP-A プリアンプを組み合わせたマイクのマッチドペア。値段も最高峰)
DPA 3506A 無指向性 S/N比 79dB 感度-28dB Ø16×170mm・163g (DPA 4006Aのマッチドペア。高価だがいつか使ってみたい)
NEUMANN KU100 無指向性 S/N比 78dB 280×180×220mm・3500g (ノイマンの最高峰ダミーヘッドマイク。SENNHEISERのMKE 2002に比べるとかなり重い。バイノーラル録音専用)
(参考) DPA 4060 無指向性 S/N比 71dB (超小型マイクなので取り回しが非常に楽。高湿度にも強い。S/N比はそれほど良くはないが、多くの場合問題ないレベル)
注1)無指向性マイクでのステレオ録音は理想的には感度、周波数特性、位相特性の揃ったマッチドペアを使うのが望ましいようです。鳥の声など遠くの音をピンポイントで録りたい時にはガンマイクあるいはパラボラマイクのような指向性の鋭いマイクの方が適しています。MKH8070はS/N比が89dBと極めてノイズの少ないガンマイクです。上記のコンデンサーマイクは野外で使用するとき、多くの場合、風防を使う必要があるでしょう。マイク付属のウインドスクリーン(スポンジ素材)はそよ風程度には対応できますが、ある程度強い風には、ふさふさのファーがついたウインドジャマーと呼ばれる風防(さらに強い風にはかご型のウインドシールドとの組み合わせ)がいるでしょう。ウインドジャマーは Rycote社製のものを購入すれば間違いないでしょう。もちろんマイクの大きさによって適切な種類を選ぶ必要があります。
注2)マイクのノイズの大きさはSN比の他に感度(出力の大きさ)も関係しているので一概には言えませんが、S/N比が高いものほどノイズの少ないマイクです。最近は安価なコンデンサーマイクもS/N比が良いものが多いようです。野外でファンタム型コンデンサーマイクを使って録音する場合、取り扱いに気を遣う(重い、湿気に弱い、風に吹かれやすい)、セッティングに時間がかかる、マイクケーブルやマイクスタンドなどの荷物が増える、録音機も大きくなる、録音の際人目を引く、などマイナス点が多々あります。どうせ使うなら良い音(目的の音)が録れるマイクを使うべきです。SP-TFB-2などの安価な超小型マイク(ラベリアマイク)でも耐入力さえ気をつければまともな音で録れるし、DPA4060なら並のファンタム型コンデンサーマイクより良い可能性があります。
ワンポイントステレオマイク
Audio Technica AT8022 単一指向性(XY) プラグインパワー/電池駆動 S/N比 75 dB以上
Audio Technica BP4025 単一指向性(XY) ファンタム電源 S/N比 80dB以上
RODE NT4 単一指向性(XY) ファンタム/電池駆動 S/N比 78 dB
Sanken CUW-180 単一指向性(XY) ファンタム電源 S/N比 77dB
注)ワンポイントステレオマイクはカプセルが固定されているため、セッティングの自由度という点で上記のマイクに劣ります。
しかしセッティングに時間をかけたくない場合、手持ちで録音したい場合、近接した音源をピンポイントで録音したいというような時は良いかもしれません。また電池駆動可能なものは、ファンタム電源が供給できないハンディレコーダーでも使用できるのはメリットです。
アンビソニックマイク
左右だけでなく、上下や前後も含めた全方位の音を収録するマイク。近年、YouTubeのVR動画や360度動画など、アンビソニックに対応した動画コンテンツが増え、需要が増しているようだ。立体音響を再現する録音方式としてダミーヘッドを使用したバイノーラル録音や複数のマイクを用いたサラウンド録音などもあるが、これは4つの単一指向性マイクカプセルが4面体に固定されたワンポイント式のマイクで手軽に立体音響を収録できる。
Zoom H3-VR アンビソニックス方式のVRマイクとレコーダーがセットになったもので、手軽にアンビソニック録音を行うことができる。ステレオ、バイノーラル録音にも対応している。24bit/96kHzまでの対応。これを三脚にセットする(あるいは机に置く)だけですぐに録音が開始できる。環境音や楽器演奏の収録はもちろん、映像撮影の音声収録、オンラインの会議などにも使えそう。
Sennheiser AMBEO VR MIC Sennheiserの高品質なアンビソニックマイク。同社のME 5004という単一指向性マイクのカプセルを4つ使用している。
他にもRode NT-SF1、Core Sound TetraMicなどがある。
マイクの設置方法
上記のマイク(ステレオマイクやアンビソニックマイクを除く)は基本的に三脚などの上にステレオバーとマイククリップをつけて固定して使う必要があります。三脚はカメラ用のもので構いません。ステレオバーは例えば、SABRA-SOM ST2、マイククリップは、ピストルグリップとウインドジャマ―のセットなどがあります。もちろんマイクの種類(径と長さ)に応じて適切なものを選ぶ必要があります。
録音機(ポータブル・レコーダー)
ファンタム48Vを供給できるポータブルレコーダーは、各社から発売されています。
記録メディアにSDカードを使ったもの、フラッシュメモリーやハードディスクを搭載したものまで色々です。
近年はハンディレコーダーでもファンタム48Vを供給できる機種が増えてきましたが、レコーダーが軽すぎてもマイク(とケーブル)の重さとバランスが取れず使いにくいです。機能、可搬性、予算などを考慮し、用途に適したものを選ぶ必要があります。
Tascam DR-70D
4つのXLR入力を備えた小型軽量のレコーダー。一眼レフやビデオカメラの撮影時に使うのが主な用途のようだが、単体の音声レコーダーとしてもなかなか使える。まずノイズの少ないマイクプリアンプがついている。そして作りもそれほどチープな感じではない。ただ使ってみると色々と粗が見えてくる。まず小型化のせいもあり、入力レベルのトリムや再生・停止ボタンがとても小さく、操作しずらい。メニューも分かりづらい。ファンタム電源のスイッチは外に付けてほしかった。また電池はあまりもたない(ファンタムマイク2本の場合、eneloop pro で3時間もてばいい方)192kHzに非対応。ヘッドホン出力の音が貧弱。とはいえ3万円前後の値段で買えることを考えると十分お買い得と言える。
Tascam DR-701D
DR-70Dの上位版のよう。カメラとの同期機能などのほか、192kHz録音に対応し、マイクプリとヘッドホン出力がグレードアップされたのは良い。ただメニューは相変わらずのようだし、ボタン類が極小なのも同様。またDR-70D同様、バッテリーはあまり持たなそう。DR-70Dとの価格差を考えると微妙なところ。
Tascam DR-680MKII
6つのXLR入力とデジタル入力を備えた24bit/192kHz対応のレコーダー。上記の機種に比べるとだいぶ大きく重くなるが、逆にこれぐらいの方がマイクを接続したときの安定感はあるだろう。とりたてて特徴はないが、録音ボタンが大きく、ファンタムやゲインの切り替えなどもスイッチがあるので使いやすそう。
32bitフロートとデュアルADコンバータを搭載した24bit/192kHz対応の6chレコーダー。32bitフロートに対応することで、レベル調整が不要になり、レベルオーバーによるクリップの問題から解放されたという。入力信号に1msのディレイをかけることでピーク・レベルを先読みし、クリップを未然に防ぐというAdvancedリミッターも搭載。重量も軽く、小さい。コスパは抜群だろう。電源も単三電池だけでなく、ソニーのリチウムイオン電池に対応している。
Zoom F8n
24bit/192kHz対応の8chレコーダー F8の後継機。ZOOMのレコーダーというとプラスチッキーで安い(割に音はいい)イメージだが、これはアルミ製のボディで、マイクプリも非常に低ノイズなようだ。Advancedリミッターは搭載しているが、32bitフロートには非対応なので、F6との値段差を考えると微妙なところ。
Sound Devicesは7シリーズ(702、744、788など)が生産終了となり、MixPreという新たなラインに置き換わった。これはその改良版(32bitフロート対応)のMixPre IIシリーズの3chのレコーダーである。7シリーズの金属の塊のような質実剛健な作りから、軽金属とゴムを組み合わせた躯体になったのは好みがわかれるところだろうが、重さも軽くなり、値段もずいぶん抑えられた。旧機種のMixPre-6を使っているが、マイクプリはノイズも非常に少なく優秀。ただメニュー操作はちょっと分かりづらい。バッテリーが乾電池だけでなく、ソニーのリチウムイオン電池やusb-c接続のポータブルバッテリーにも対応している点はよい。